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コラム|製造業の DX に 3D で貢献する|第四回:VR でコミュニケーションの方法を変える

2020年5月21日

第四回:VR でコミュニケーションの方法を変える

執筆:ラティス・テクノロジー株式会社 代表取締役社長 鳥谷 浩志

ボルネオに住むオランウータンは一日 300メートル程度しか移動しないそうです。体重が 90キロ近くにもなるので、身体的な負担が大きいからです。在宅勤務を始めてみると移動に、いかに時間的かつ身体的負担がかかっていたかを実感します。Web 会議であれば、朝一番で米国と打合せした直後、大阪と打合せし、すぐに東京の打合わせに瞬時に参加できます。ネット社会の利便性を体で感じました。距離や時間を超えてつなげるネットワーク技術に加えて、分かりやすい情報伝達手段としての 3D を統合できれば、”リモート 3D ワーク” という新しい働き方も可能になるでしょう。一つの手段として、VR は注目すべき技術です。今回は、製造業における VR の現状と 3D デジタルツイン ® を利用した VR の実際について紹介しましょう。

● リモートワークの次を考える

新型コロナは期せずして、在宅勤務という新しいワークスタイルの壮大な社会実験を強制することになりました。通勤・移動・出張時間がなくなり、会議や打ち合わせが効率化された一方、リアルな対面コミュニケーションが失われた結果、微妙なニュアンスや本当に言いたかったことが伝わらないといった課題も明らかになってきました。対面的な相互やりとりの難しい Web 会議では、相手の印象の把握や自分の意志の提示がうまくいかないことが起こり、お互いの共感を得るコミュニケーションができないからでしょう。

共感を得るためには、お互いに共通の体験をするということも重要な要素です。この手段として VR で共通の体験をするという方法があるでしょう。遠隔地にある工場の現地現物を自宅にいながら 3D で体感し、現場の人とコミュニケーションできれば、より正確な意思疎通ができるはずです。ここに ”リモート 3D ワーク” という新しい働き方のヒントがあるのです。

● なぜ、VR は製造現場では利用されてこなかったのか?

これまで、製造現場では VR はあまり利用されてきませんでした。まず、その理由から考えてみましょう。VR は大別すれば、コンテンツ作り込み型とデータ検証型に分けることができます。

コンテンツ作り込み型は、教育訓練用などに作品としてコンテンツを作り込むものです。ビルの作業現場からの落下体験をさせることで、安全を徹底させようといったものがこれに当たります。この分野のコンテンツで最も印象に残っているのが、JAL が整備士向けに開発したコンテンツです。その講演を聞いた際の 「JAL は日本でもっとも航空機をもっている会社だが、数千人の整備士に航空機を与えるわけにはいかない。だから、VR でその環境を提供するのだ」 という説明は、今でも鮮明に記憶に残っています。

この教育訓練コンテンツは、航空機のコックピットやエンジンを 3D で再現した素晴らしい出来栄えのものでした。あまりに素晴らし過ぎて、逆に、ここまでのコストをかけてコンテンツを作成できるのは、高額な航空機という製品と多数の整備士という特殊な要因があるからではないか、厳しい原価管理と戦っている製造現場では経済的にはペイしない、導入は難しいと感じました。特に 3D モデルは実機を 3D 計測するなどして、手間ひまかけて独自に作成したようです。生産性を重視する現場で利用する VR では、製品の 3D CAD モデルを 「そのまま」 利用するのが現実的です。

● ではデータ検証型ならどうか?

もし、設計が 3D デジタルツイン(参照:コラム|第二回:ドイツを参考に日本の DX の未来を考えるを提供していれば、製造部門は VR で即座に体験することができます。作業しやすいか安全性はどうかといったことを 3D モデルの中に自分自身が入り込んで作業者視点で検討することができるわけです。しかし、実際にはこれがうまくいきません。なぜでしょうか。それは VR で見たいものが大きくて複雑で高価なモノだからです。手に持って確認できる小さなカメラやスマホのようものはディスプレイ上での確認で十分です。3D プリンタで試作することも気軽にできます。VR で体感する価値があるのは、試作品を作るが大変、製造するにもコストがかかる、作っても移動が大変といったモノです。たとえば、図に示すような 2~3万点の部品から成る自動車がそのよい例です。

2~3万点の部品から成る自動車の3Dモデル(3D データ提供:トヨタ自動車株式会社)

※ 3D データ提供:トヨタ自動車株式会社

困ったことに、大きくて複雑なものは既存の VR では手軽に見ることができません。CAD データも大きくなり VR で表示できない、また、できてもスムーズに表示できないからです。スムーズに表示できないと、いわゆる乗り物酔いになることが知られています。検証どころではなくなってしまうのです。そこで、多くの VR システムでは、外から見えない部分のデータを減らす、穴を除去するといった “手作業” をして、軽い 3D データを作成しなければなりません。これでは手間がかかる上に、実機と異なってしまい本物の検証になりません。低コストかつ効率的な運用を求める現場のニーズとは合わないわけです。

● 現場での VR 利用を可能する三つのコンセプト

そこでラティスが考えたのが、製造現場が喜んで VR を利用するための三つのコンセプト、準備レス・実機レス・設変レスです。目指す姿は、①可能な限り少ない準備で VR 検証できること、②実機を待って行ってきた検証を 3D モデルで行うことでフロントローディングを実現すること、③結果として設計モデルの品質が上がり設計変更が激減すること、の三つです。「デジタル擦り合わせ」 こそ日本の勝ち筋です。それを実現するソリューションを提供しようと考えたわけです。

ラティスの持つ 3D の超軽量化技術 XVL は、CAD データを 1/100程度に軽量化する技術です。実際、CAD では表示すら難しい自動車レベルのフルモデルでも XVL であれば、ノート PC でも表示することができます。3D モデル全体をそのまま PC の中で表示できれば、実機で行ってきた検証を PC 上で置き換えていくことが可能です。XVL ユーザーの多くは実機と同等の大規模 3D モデルをサクサク表示して、デザインレビュー等に利用してきました。そういう会社では、すでに 3D デジタルツインが設計に存在するのです。

設計に製品に対応する 3D デジタルツインがあれば、それを XVL 変換することで、何の準備をすることなく VR 検証可能になります。実機と同等の車一台分のデータを扱うことができますから、農機や建機、半導体製造装置や産業用設備等これまで実機で検証していた作業の多くを VR で置き換え可能になります。実機レスに挑戦することができるのです。さらに作業のしやすさや安全上の課題も試作前に発見できるので、設計変更も減らすことができるでしょう。準備レス・実機レス・設変レスを実現した XVL VR の実際をビデオでご覧ください。

準備レス・実機レス・設変レスを実現した XVL VR

● 「デジタル擦り合わせ」 を促進する

実は、ラティスはもう 20年近く前から、2D 画面上でデザインレビューするソフトウェア(参照: XVL Studio Proを提供してきました。この普及を妨げてきたものが二つあります。一つは 3D CAD が普及して製品に対応する 3D デジタルツインが準備されるまでに長い時間がかかったこと、もう一つは現場のベテラン作業員が IT を嫌い、使いたがらないことです。ある会社のベテランは PC のキーボードを机の中にしまっていたと言います。現地現物で現場の暗黙知を鍛え上げてきたベテランは、IT によるデザインレビューに参加してくれないのです。

3D 設計が普及してきた今、この問題を VR で解決できれば、日本の強みを IT で引き出すことができます。そのためにラティスが挑戦しているのが、VR の使い勝手の向上です。現在開発している機能のイメージをビデオ上でご覧ください。

ヘッドマウントディスプレイをかぶるだけで、目の前に実機が実物大で現れ、その部品をいとも簡単に移動することができます。実機感覚を実現することで、IT に不慣れなベテランもレビューに参加できるようになり、ベテランの知見を存分に活かすことができるようになります。

ベテランがキーボードを机から取り出して VR 機器と一緒に自宅に持ち帰れば、自分の部屋で作業の確認や訓練ができるかもしれません。オフィスワーカー中心だった在宅勤務を、現場の作業者にまで拡大することができる可能性があります。新型コロナ対策が長期化する今、外出機会を減らすことに貢献できるでしょう。

今回のお話はここまで。次回は、VR の現場での利用方法をもう少し深堀してみましょう。

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