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コラム|製造業の DX に 3D で貢献する|第六回:VR/AR/MR で DX をどう実現するか?

2020年6月30日

第六回:VR/AR/MR で DX をどう実現するか?

執筆:ラティス・テクノロジー株式会社 代表取締役社長 鳥谷 浩志

新型コロナの一次感染は一服し、パンデミック不況に苦しむ各国は、「命か経済か」 から 「命も経済も」 へと舵を切りました。エボラ熱や SARS と比べて、致死率の低い新型コロナでは、経済再生との共存が可能になるのです。一方、その感染率の高さを考えると、ウィルス封じ込めはワクチンか特効薬が開発され普及するまでは厳しいでしょう。つまり、感染拡大の度に自粛と緩和が繰り返され、パンデミック不況は長期化する可能性が高そうです。これは DX(デジタルトランスフォーメーション)に乗り遅れてきた日本には好機かもしれません。3密を避けるという新しい生活様式の中で、DX の重要性に私たちは気づかされ、社会に DX 導入の機運が出てきたからです。今回は XR(VR/AR/MR)という観点から DX を考えてみましょう。

● AR がなぜ現場で必要となるのか?

前回、VR や MR を製造現場でどう利用するかを、製品や組立工程の検証や保守作業などの訓練といった観点から説明しました。DX の観点で考えると、製造業の中にいかに 「設計情報の流れ」 を創るかが重要です。この連載の中では、その起点を設計の 3D デジタルツインと呼びました。設計や生産技術では VR で製品モデルと組立工程をデジタルに検証し、それを製造現場では作業指示書として活用し、…というように情報の流れが作業プロセスの並列化を推し進めるからです。今回はまず、VR と MR の間にある技術として重要な AR(Augmented reality:拡張現実)を現在開発中の XVL AR のビデオで紹介しましょう。

AR は 2016年に大ブームとなったスマホ上のゲーム、ポケモン GO で一気に身近なものとなりました。スマホの画面の中で、目の前の風景の中にポケモンの CG キャラクターが現れ、現地現物とデジタル情報が重なることで広がる世界があることを私たちは認識しました。この技術は製造現場で、どう活用できるでしょうか。ラティスでは、マイクロソフト社の HoloLens を利用して、製造現場で現物の上で、3D マニュアルを参照しながら、作業を進めることのできるソフトウェアを開発しています。これは、米国のある航空機メーカーとの共同開発のプロトタイプのソフトウェアです。ここでは、五十年以上前に製造した製品の保守を継続しています。そういう製品に精通する作業者は、今は存在しません。その中で顧客の信頼を得るためには、間違いを防ぐ AR マニュアルが必要なのです。

HoloLens には Windows10 が搭載されており、ヘッドマウントディスプレイをかぶったまま指先で操作を指示することができます。現物の上に直接、次に取り付けるべき部品を 3D で示し、組付け手順を指示することで、誰でも間違いのない作業をできるようにしようというものです。こういったニーズは、高価な製品や安全上の理由から高い精度が求められる製品、特に年間数台しか作らない製品には有効でしょう。HoloLens をかぶったまま作業するのでは、作業性に問題が出るのではという指摘もありますが、年間数台しか製造しないような製品であれば、逆に手間をかけてでも、手戻りのない品質の高い製品を製造することが、結果的に生産性を高くすることにつながるからです。。

● 急速に進化する AR 技術

技術的には AR の難しさの本質は、現物と 3D の位置合わせと、視線がどこに向いているのかを計測するアイトラッキングにあります。現物にマーカーを張れば、正確かつ高速な位置合わせができますが、運用上の手間が増えます。視線が微妙にずれると部品を組み付けるべきところに 3D モデルを表示できなくなりますが、一方、正確に計算しようとして時間がかかりすぎると使い物になりません。現在、ハードウェアが急速に進化しつつあって、このような課題も解決されつつあります。マイクロソフト社は HoloLens2 で没入感と使い勝手を向上させ、AR より MR デバイスとしてのプロモーションを始めています。一方、アップル社も 2019年には高精度なモーションキャプチャー技術を持つ IKinema社、2020年には VR 配信の NextVRを買収するなど、AR/MR 分野に参入するのではないかとささやかれており、現段階では業界地図がどうなるのか全く読めません。

逆に、デバイスの進化が急なだけに、できることが限りなく広がる可能性があるのがこの分野です。一年後にデバイスが実用的になり、AR の作業指示書を利用していることが製造業の大きな差別化につながる可能性もあるのです。今では、多くの製造業では、ラティスの編集ソフト XVL Studio を使って、3D 作業指示書を作成しています。現在は、これを Web や Excel、PDF などで表示していますが、そのまま AR デバイスでも表示できるようになるのが 3D フォーマット XVL の強みです。先に紹介した AR ソフトも、興味を持っていただいた先進ユーザーとともに進化している最中です。

● 現場向けのタブレットによる AR という選択

製造現場での手軽な利用を考えると AR による 3D マニュアルは、デバイスをかぶる必要のないタブレット上の方が普及するでしょう。タブレットにもカメラやジャイロセンサーが搭載されており、位置合わせとトラッキングがそれなりにできるからです。しかも、技術的には XVL による作業指示書はそのままタブレット上でも再現することが可能です。下記のビデオは在宅勤務中のラティスの開発者が作成したプロトタイプですが、自宅の部屋にマーカーを貼れば、そこに 3D 作業指示書を表示することもできます。

現場で現物の横でタブレットを見ながら作業することも可能ですし、これなら自宅で作業トレーニングをすることも不可能ではありません。タブレット一つあれば、工場現場のリモートワークを実現することが可能になるのです。二次感染でまた自粛となっても、このようなリモート 3D ワークの導入が製造業にとって現場人材育成のチャンスになる可能性もあります。

● 再び MR を考えてみる

別の開発者からお手軽な MR ソフトのプロトタイプも開発したという連絡あったのでそれもビデオで紹介しましょう。こちらは会議室内の机の上に 3D モデルを置き、ハーネスに見立てた紐を 3D モデル上で検討している様子です。自分の手や体、周りの壁や机も見えているのが分かります。仮想世界に埋没する VR では、周りの壁が見えないので、動きまわると安全上問題を起こすことがありますが、MR ではそれを解決することができます。以前は数千万かかったハードウェア環境も、このプロトタイプでは、深度センサーとして Azure Kinect を利用することで、PC も入れたハード全体で 60~70万円程度に抑えられています。ハードの急速な進化と低価格化で、MR もかなり身近なものになりつつあります。

VR/AR/MR という種別は、メーカー側の技術的な制限で分けられているだけですから、いずれ廉価な MR 機器が出てくれば、それに集約されていくのでしょう。仮想世界だけの VR より、現実世界との融合を意識した MR の方の将来性が高いでしょう。いずれ、メガネもセンサーも小型化されて、違和感なく現場でも使えるような時代が来るでしょうが、当面は、コストと時間をかける価値のある分野はメガネ型、さっと現物と合わせたい場合にはタブレット型という棲み分けになるでしょう。

● VR/AR/MR で 「設計情報の流れ」 を創る

DX 視点に立ち返り考えるべきポイントは、VR ツールの導入を単なる Digitalization に留めてはいけないということです。肝心なことはそれを DX にまで高めていくことです。実際、AR や MR は注目されている技術であり、デモや試験導入でも大変理解しやすく印象的な結果を出しています。しかし、それが現場に定着しているところはほとんどありません。なぜでしょうか?それは準備が大変な割には、効果が良く見えないからです。根本的な間違いは VR だけで効果を出そうというところにあります。ツールの導入を優先してしまい、全体を見失ってしまうのです。全社の生産性を上げるには、VR/AR/MR を使って、「設計情報の流れ」 を創りだしていく必要があります。

VR や MR は設計が正しい 3D モデル、つまり設計のデジタルツインを完成させるのに有効な技術です。製造や保守という現場視点の検証を早期にデジタルモデルで実現する 「デジタル擦り合わせ」 をできるからです。さらに、組立手順や製造の部品表までこの段階で作成してしまえば、生産技術の 3D デジタルツインが完成します。それを XVL AR や MR で見れば、組立作業や保守作業の仮想訓練に使うことができます。

日本型の 「3D による DX」 を実現する手法
日本型の 「3D による DX」 を実現する手法

生技部門でさらに 3D デジタルツインを進化させ、工具や治具、組立作業上の注意点を不付加していくことも可能でしょう。また、サービス部門ではサービス部品表を編集し、保守に必要な分解手順、部品情報などを追加することも可能です。軽量 3D フォーマット XVL は、こういった情報をすべて表現できるよう設計されています。部門から部門へと正しい設計情報を引き継ぎながら、それぞれの部門が必要な情報を付加していくことができるのです。現場ではタブレット AR でそれを参照すれば、作業指示を現物の上で確認、修理手順を現場にある故障した製品の横で確認できます。

● 再度、DX 視点で考えてみる

以前、ある大手農機メーカーをお邪魔したとき、XVL によってトラクターやコンバインをオフィスに置くことができるようになったと聞いたことがあります。実機は置けないけれど、XVL による 3D デジタルツインであれば、営業のオフィスにも置くことができるのです。今では VR を使って、その 3D モデルをリアルに実物大で、さらに現地現物とともに再現できるようになりました。さらに、製造業全体に設計情報の流れを実現するために設計された XVL であれば、各部門の必要とする情報を 3D モデルと関連付けて確認することができ、それが現場の作業指示書やサービスマニュアルにとって代わることでデジタル情報の共有が進み、DX が進んでいくことになります。

リモートワークの長期化が予測される中、リアルな世界でソーシャルディスタンスを取り、むしろ、バーチャルな世界で濃密なコミュニケーションが求められる時代となりました。そういう時代を見越してか、日本の通信 3社も、ソフトバンクが HoloLens、KDDI が nreal light、NTTドコモが Magic leap one という眼鏡型デバイスを販売しています。SF の中で見てきたような未来がすでにそこに起ころうとしている現在、「現場の現場による現場のための VR/AR/MR」 の姿を、日本の先駆的なユーザーの皆様と創り上げていきたいと考えています。

今回のお話はここまで。次回は、製造業 DX のためにいかに組織の中に情報の流れを創っていくのか、そのシステムのあり方を考えてみる予定です。

(関連 XVL 製品情報)
※ XVL Studio シリーズ:製品紹介ページ(サイト内ページにリンクします)
※ XVL VR:製品紹介ページ(サイト内ページにリンクします)
※ MREAL 対応ソフト:製品紹介ページ(サイト内ページにリンクします)

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