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コラム|製造業の DX に 3D で貢献する|第八回:リモートワークを 3D で支援する

2020年7月31日

第八回:リモートワークを 3D で支援する

執筆:ラティス・テクノロジー株式会社 代表取締役社長 鳥谷 浩志

リチャード・ドーキンスの著書 『遺伝子の川』 によれば、遺伝子は利己的であり自身がどう生き延びるのかだけを追求するといいます。生物のほとんどの行動は DNA の効用を最大化するという観点で説明できるということです。一方、6月まで連載された日本経済新聞のコラム 「脅威のウイルスたち」 には、遺伝子の中で生息するウイルスは、生物の体を乗っ取り、その行動を操ることができるとありました。Go To キャンペーンにのって旅行に行くべきか行かざるべきか、日々の新型コロナ感染者数に脅え、右往左往する日本人もウイルスに行動を翻弄されているのでしょうか。われわれ現代の人類は、コレラやチフス、新型インフルといった感染症との戦いにも生き抜いてきたヒトの子孫ですから、今回のウイルスともうまく共存する術を見つけていけるでしょう。3密を避けるための在宅勤務もその一つの手段です。今回は、リモートワークを 3D でどう支援していくかを考えてみましょう。

● イノベーションは都会で起こるのか?

日立や富士通といった IT 先進企業では在宅勤務を推進する一方、多くの企業が通常出社に切り替えていると報道されています。意思疎通の容易なオフィスでの仕事の方が企業の生産性が高まる、あるいは、オフィス環境でないと社員は十分に働かないと多くの経営者が考えているからでしょう。空間経済学によれば、3密の進む都市の方が、コラボレーションが容易になり、その結果、効用や生産性、創造性で高い満足度を得ることができると言います。実際、厚生労働省発表の賃金構造基本統計調査によると、2018年の東京都の平均年収は 622万円と、300万円台の県も多い中、突出しています。都道府県別の年収ランキングと新型コロナの感染者数ランキングを並べると、クラスターの発生した一部を除き、相関関係がありそうです。

イノベーションには幅広い知の探索が必要と言われます。それには、多様な知識を瞬時に組み合わせるには直接会って議論するのが最も早く、したがって、都会の方が優位で、そのため所得も上がるという関係にあるのでしょう。一方、IT 企業が都心のオフィスを縮小して在宅勤務を推進するのは、プログラム開発のような創造的な仕事は一人で集中した方が効率良く進められ、また、デジタルコミュニケショーン手段の進化で、知の探索がある程度は可能になったと判断しているからでしょう。with コロナの時代には、リモートワークと出社の微妙なバランスを保つことで、経済と命の両立が可能になります。

● 製造業の在宅勤務を阻むものは?

一方、モノを相手にする製造業のリモートワークの実現はなかなか困難です。設計の仕事では、多様なデータの中から最適な部品を探し出し、設計者同士のディスカッションを通して、最適の形に変えた部品を組み合わせていく必要があります。この作業には、3D CAD を動かすためのワークステーションが必要で、ネットワーク越しにデータ量の大きな CAD データを社内データベースから取り出す必要があり、とても在宅では難しいという話を聞きます。自宅の PC からリモートデスクトップ接続して、社内の 3D CAD を利用してみたが、遅くて使えなかったということも耳にしました。

それでも何か方策はないのか、まず、欧米型の製造業との比較を通して、日本の課題を考えてみましょう。前にも述べたように、欧米型は設計至上主義で、設計で設計モデルの完成度を高め、現場は設計モデルに従って徹底的に自動化していきます。日本では多くの企業では、現物による擦り合わせで設計品質を高め、3D CAD は図面を描くための補助的手段となっています。したがって、設計から現場への情報伝達は図面になります。この現地現物偏重と図面市場主義がリモートワーク推進の上では、大きなボトルネックになっているのではないでしょうか。実際、新聞報道によれば、在宅勤務制度を恒久化したトヨタ自動車の豊田章男社長は 「トヨタの 『現地現物主義』 の定義を改めることが重要かなと思う。相手の元に行って話すだけがすべてではない」 と発言しています。

欧米/日本型の開発手法の違いは?
欧米 / 日本型の開発手法の違いは?

● 製造業のリモートワークを実現する 3D デジタルツインとは?

では、製造業のリモートワークを支援するにはどうしたらよいでしょうか。製造業の在宅勤務の二つの阻害要因である[現地現物]と[図面文化]の偏重を見直していけばよいでしょう。現地現物による擦り合わせと図面を通じた現場とのコミュニケーションを 3D モデルで置き換えるのは有効な手段です。デジタルで擦り合わせを行い、デジタルで現場力を引き出す、そのような仕組みを 3D モデルベースに実現するのです。これは、コラム第三回* で説明した日本の製造業の強みを引き出す DX 推進という考え方と合致します。そして、そのような 3D モデルのことを ”3D デジタルツイン” と呼びました。
*コラム第三回:日本の強みを生かし、弱みをカバーする DX の手法

XVLによる3Dデジタルツインの2つの役割
XVL による 3D デジタルツインの 2つの役割

超軽量 3D の XVL であれば、実機を置き換える 3D モデルを表現できます。3D モデルの検証であれば、自宅の PC でも軽快に動く XVL で十分です。現地現物による擦り合わせを 「デジタル擦り合わせ」 に変えていくことができます。現物の代わりに XVL モデルを自宅で検証したり、発見された課題を Web 会議システム経由で 3D モデルごと共有して、設計者とその上司、あるいは設計と生産技術で解決策を議論するなど在宅コラボレーションを実現できます。また、軽量モデルにものづくりに必要なすべての情報を詰め込んでいくことで、図面文化を 3D モデル中心の文化に変えていくこともできるでしょう。設計と製造など、部分かりやすい 3D モデルで門間コミュニケーションができるのです。実際、緊急事態宣言の間、ラティスには XVL を自宅で利用したいという多数の要望をいただき、対応してきました。3D デジタルツインが準備されている先進企業では、リモートワークが実施されていたことを物語っています。

● 新型コロナで、何が製造業に悪影響を与えたのか?

「日経ものづくり」 2020年 6月号には、新型コロナが製造業に与えた悪影響の原因についてのアンケート結果が掲載されています。それを見ると、取引先とのコミュニケーションに始まって、設計間、設計-生技、設計-製造間のコミュニケーションが課題の上位にあります。また、実験、評価、試作といった現地現物に関わるもの、デザインレビューといった複数によるコラボレーションの課題がリストアップされています。いずれも、かなりの部分は、3D デジタルツインを使ったデジタル擦り合わせで解決できるでしょう。では、具体的どうしたらよいでしょうか。

第四回~五回で紹介した 3D デジタルツインを利用した VR/AR/MR といった技術は、まさにデジタル擦り合わせを実現し、デジタルで現場力を高める方策でした。今回は、部門間のデジタル擦り合わせを実現する例として、ラティスと株式会社図研(本社:神奈川県横浜市、ホームページ:https://www.zuken.co.jp/、以下、図研)が共同開発した二つのソリューションを紹介しましょう。

一つは、エレキ設計とメカ設計の連携を促進する 『XVL Studio Z』、もう一つは、3D ケーブル配策を行う 『XVL Studio WR』 です。製造業では、同じ設計でもメカ設計とエレキ設計は分業され、CAD もそれぞれの専用ソフトが導入されています。製品の電子化が進み、高度化・複雑化する製品設計においては、メカ部門とエレキ部門間のコミュニケーション不足に起因するトラブルも目立ちます。3D デジタルツインでこれを解決していくことができます。

● 在宅勤務を促進するソリューションの実際

まず、エレメカ連携を実現する XVL Studio Z から紹介しましょう。図研製のシステムレベルの基板設計環境である 『Design Force』 から基板の 3D モデルとエレキ属性を XVL 出力することができます。筐体の 3D モデルは、メカ CAD から XVL 変換します。この二つの XVL を統合することで、メカとエレキが融合された 3D デジタルツインが完成します。XVL Studio Z では、この 3D モデルを利用して、どこが電流の流れる最短経路か、どこがショートしそうか等を検証していくことができます。現物がなくても、3D デジタルツインでエレキ的な実験ができ、メカ的な課題が出たら、それを 3D でメカ設計部門に伝えることができます。これまで実験室で電子銃と実機を使った検証も自宅で可能になるのです。

次は、3D でケーブルを配策する XVL Studio WR です。ケーブルやハーネスはメカ部門とエレキ部門の狭間にあって、デジタル化が遅れていた領域でした。特に 3D 配策はメカ CAD で主要部の設計はしても、ハーネスは現場でひもを使って現物合わせといった企業も多くあります。この作業がデジタルでできるなら、在宅勤務も可能になるでしょう。図研のケーブル設計のための統合電機 CAD 『E3.series』 は、どことどこをケーブルで結ぶのかという論理データを設計し、出力することができます。XVL Studio WR はこの論理データを入力として、ケーブルを空間上に 3D 配策するためのソフトウェアです。ケーブル長の計算もできるので、無駄のないケーブル設計を可能にします。見える化されたケーブルにより、設計と現場間の擦り合わせが可能になります。

デジタル擦り合わせ推進
デジタル擦り合わせ推進

● 不確実性の時代を生き抜くためのヒント

2020年の 『ものづくり白書』 によれば、米中摩擦のような地政学的リスク、台風や洪水のような気候変動リスク、新型コロナのような感染症リスクなど不確実性は高まる一方で、そういう時代にはダイナミック・ケイパビリティ、つまり ”企業変革力” が必須になると説いています。しかし、その中核ともなるべき、3D 設計がまだまだ進んでいない企業も多いといいます。一方、3D 設計の進んだところは設計リードタイムの短縮や 3D による組立工程設計で、生産性向上が加速しています。3D デジタルツイン を整備できるかどうかで生産性に大きな格差が生じているのです。

すべての製品を 3D デジタルツインで準備できれば、在宅勤務も強力に推進することができるでしょう。現地現物検証も部門間コラボレーションも、デジタルで実現できるソリューションが続々と登場しています。工夫次第では、設計や製造分野の在宅勤務も可能になっているのです。3密を避けるという意味では、社員の 「命を守る 3D」 とも言える状況になっています。そして、メカとエレキをつなぐソリューションは 「命をつなぐ 3D」 とも言えるのではないでしょうか。

オーケストラのハーモニーはどこから生まれるか?
オーケストラのハーモニーはどこから生まれるか?

緊急事態が明けて、あるオーケストラが 3密を避けるように奏者間の距離を広く空けて演奏してみたところ、指揮者のイメージとは全く異なってしまい、即座に演奏をやめたそうです。奏者はそれぞれの周りの息遣いを聞きながら、ハーモニーを奏でていたのです。飛沫の分散を測定してみると、幸い、管楽器から漏れる息からの飛沫は少なく、元の距離で演奏することができたとのことでした。with コロナの時代に、遠隔で開発しなければならない設計や製造の関係者も 3Dデジタルツインで擦り合わせることで、ハーモニーを奏でることができるではないでしょうか。

今回のお話はここまで。次回はデジタルで現場力を高める 3D 技術として、5G 時代に 3D をどう活用するかを紹介しましょう。

(関連 XVL 情報)
・3Dデジタルツイン:紹介ページ(サイト内ページにリンクします)
・XVL Studio Z:製品紹介ページ(サイト内ページにリンクします)
・XVL Studio WR:製品紹介ページ(サイト内ページにリンクします)
・Design Force:製品紹介ページ(図研ホームページにリンクします)
・E3.series:製品紹介ページ(図研ホームページにリンクします)

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