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SPECIAL 対談|3D データで繋ぐ~ (1) CAD 系の 3D フォーマットの標準化動向

2021年9月29日

2021年
9月

[エリジオン × ラティス・テクノロジー]

3D データで繋ぐ~ (1) CAD 系の 3D フォーマットの標準化動向

今回は、(1) CAD 系の 3D フォーマットの標準化動向、(2) 3D 図面を実現するためのセマンティック PMI の最新動向、(3) 製造業の未来を変える 3D の未解決問題 の 3つのテーマで、株式会社エリジオン 取締役 CTO 相馬 淳人 様にラティス・テクノロジー株式会社 代表取締役社長 鳥谷 浩志 (プロフィール)がオンラインでお話しをうかがいました。

※本対談は3回に分けてお届けいたします。

株式会社エリジオン 取締役 CTO 相馬 淳人 様とラティス・テクノロジー株式会社 代表取締役社長 鳥谷 浩志

3D CAD の垣根をなくす

鳥谷:
今日は 3D データ変換の分野で世界有数の技術を持つ株式会社エリジオン (以下、エリジオン) より取締役 CTO 相馬 淳人さんをお迎えしました。エリジオンさんは CAD からの XVL 変換開発で、長年のラティス・テクノロジー株式会社 (以下、ラティス) のパートナーです。

今回は、(1) CAD 系の 3D フォーマットの標準化動向、(2) 3D 図面を実現するためのセマンティック PMI の最新動向、(3) 製造業の未来を変える 3D の未解決問題 の 3回に分けてお話を伺いたいと思います。まずは自己紹介をお願いします。
*株式会社エリジオン|ウェブサイト

相馬:
私は 1995年に新卒で開発エンジニアとしてエリジオンに入社しました。エリジオン自体は、会社の分社前から数えると約 35年の歴史があり、ずっと 3次元 CAD 関連のソフトウェア開発のビジネスを行っています。入社して初めての出張が、DESIGNBASE (株式会社リコーの開発していたソリッドモデラー) の展示会で、ちょうどそこで鳥谷さんが講演されていたことに何か運命的なものを感じます。

鳥谷:
当時、私は会社を興そうかと考えているタイミングで、創業者の小寺 敏正 さん (現 エリジオン 代表取締役会長 CEO) にはいろいろとお世話になりました。エリジオンさんというと CAD データ変換が祖業ですね。どういう経緯で変換ビジネスを始めたのでしょうか?

相馬:
1990年代にかけてダッソーアビエーションから CATIA、GM から UNIGRAPHICS というようにユーザ主導の 3D CAD が、また独立系では Pro/Engineer というように出自の異なる 3D CAD が誕生し、発展していきました。多様な 3D CAD がユーザに普及してくると、CAD の基本となる形状データを他システムに渡すことが必須になってきました。

入社して 10年、まずは CAD 間で形状を正しく渡すことというのが、私が最初に取り組んできたことになります。大手の CAD ベンダーは皆、自社の設計思想が正しいと主張するわけで、その中間に入って誰かがやらないと、CAD 間で上手くデータが渡らないというのが本質的な問題でした。

鳥谷:
その問題についてもう少し具体的に教えていただけませんか。

相馬:
問題は大きく二つあります。一つ目が CAD ごとにそれぞれ曲面を表現する方法が異なっているので、それをほぼ同じ形状を表すように数学的に変換するということ。二つ目が、3D 形状表現の基盤である BREP (境界表現法) において、二つの CAD の間の精度の差を調整するという問題です。

鳥谷:
今では癒しという意味の 「ヒーリング」 ですが、当時の 3D 業界では曲面をヒーリングするというような言い回しをしていましたね。これは、どのような意味で使われていたのでしょうか?

相馬:
先ほどの、BREP の精度の差を調整するという意味です。二つの CAD があって、一方は精度の高い形状データを持ち、他方は精度の緩い形状データを持つとしましょう。そういう緩いデータに関して、厳密に表現すると、こういう稜線を表現したはずだというような推測しながら調整していくのです。この作業の巧拙が、CAD 変換の成功率の差となって、どれだけ変換ビジネスを取れるかを左右するという時代が 10年ぐらいは続いたでしょうか。

鳥谷:
エリジオンさんはヒーリング技術で勝利を手にしたということですね!CAD 変換は形状から始まり、次にメタデータをいかに扱えるかに向かってきましたね。

相馬:
ラティスさんの XVL ビジネスとも密接に関わるところですね。作った 3D データに属性情報を持たせて、後工程で利用できるようにすると、利用するユーザ数が桁違いに増えます。当然皆がネイティブの CAD を使うことは無理なので、中間フォーマットで流通させていくわけです。そこで大事になることが、元の情報を再現しているということを保証することです。

また、それとは全く別の文脈ですが、企業買収などに起因する CAD の置き換えでは、元 CAD の履歴もそのまま持ってきたいという要望を受けることも多く、変換に求められる要求レベルが上がり、開発の難易度が上がって来ています。

3D CAD データ標準化の取り組み

鳥谷:
フィーチャレベルの変換ですね。エリジオンさんが、ますます差別化できるポイントですね。ところで、相馬さんと言えば、2021年から STEP 委員会 (ISO/TC 184/SC 4)の国内対策委員長したよね。さっそく、一つ目のトピックである 3D CAD データ標準の話に移りましょう。

相馬:
まず、国際標準規格の 3D フォーマットとしては、STEP AP242、JT、3D pdf、QIF の 4つがあります。

資料提供:株式会社エリジオン

このうち STEP は当初、「AP203」 という航空宇宙業界の STEP と、「AP214」 という自動車業界の STEP に分岐していました。しかし、結局 CAD の製品データに関しては、業界特有の要件というものがそれほど出てこなかったので、「AP242」 という規格に統合され、これが現在一番大きな規格になっています。

最近では、複合材、ハーネス、締結情報、ポリゴン、PMI などにも拡張しており、少し肥大化しているのが実情です。その他、中間フォーマットとして流通しているので ISO として登録してくれというのが JT と QIF というフォーマットになります。また連携している委員会で 3D pdf も取り扱っています。

鳥谷:
客観的に見て STEP と JT は重複しているように感じます。STEP の AP242 で BREP とポリゴンの両方を扱っている中で、まったく同じように JT でも BREP とポリゴンを扱っているからです。なぜ同じような JT のポリゴンは ISO として認証されたのでしょうか。

相馬:
明確に同じ領域のものを二つ認証してはいけないという決まりはなく、ユーザニーズがあり、業界全体の利益になるもので、公開されていれば ISO にしても良いという事情があるようです。

鳥谷:
なるほど、両立させてもよいのですね。では JT の BREP に関してはどうでしょうか。以前、“JT の BREP は informative” という発表がありました。これは “有益な参考情報” という程度の意味でしょうが結局、どういう状況にあるのでしょうか?

相馬:
まず明確にしておきたいのは、反対意見も多かったので、JT の BREP は、建前上、データ変換の標準フォーマットだとは定義されていません。ISO としては、あくまでもビジュアライゼーションのポリゴンフォーマットという位置づけになっています。ただし、データ変換、ビジュアライゼーションともに、ケースバイケースで必要な要件は異なるので、一概にフォーマットの規定で用途を定義して良いのか、という議論もあります。

鳥谷:
なるほど。世の中のユーザは、そのような事情を知らないですから、JT はすべて ISO 化されているものと思っています。ポリゴンなのか BREP なのか、それが ISO なのか、それともシーメンス社の提供するプロプライエタリーの最新バージョンなのか、全くわからずに使っていますよね。

相馬:
おっしゃる通りですね。いろいろ政治的な駆け引きがあって、ISO 化されている JT のバージョンは 9.5 という、もう 10年ぐらい前の古いものに留まってしまっています。JT は、そんなに大きな変更はないと思うので、現在開始されようとしている 10.5 ベースへのバージョンアップを慎重に行った上で、そろそろフィックスしてもよいのではないかと思っています。

鳥谷:
プロプライエタリーなものと世界標準化されたものとが、渾然一体としてしまっているのですね。その点、3D pdf ではいかがでしょうか?

相馬:
pdf では、Adobe 社が戦略を良く練っていて、ISO 化して固定化する部分と、自社が開発していく部分をフォーマット上しっかりと分けており、3D pdf もその方針の中で開発が進められています。一旦 ISO 化すると、機能を追加したり、仕様を変更したりするにも ISO の委員会に諮ってからしか変えられない。

JT の場合は、製品版の商用的な部分が、そのまま ISO 化されているので、非常に事がややこしいです。フォーマットの改善に関しても、おいそれと認められないような内容を事後承諾させようとしていたりして、ISO の開発体制として、いかがなものかという感じがあります。

鳥谷:
一言で JT と言っても非常にバリエーションがあるということが分かりました。エリジオンさんにとってはビジネスチャンスですね (笑)。

相馬:
実際は BREP の形状変換に関しては、すでにコモディティ化しており、複数の標準フォーマットが混在しても大きな混乱はあまりないでしょう。その背景としては、業界団体、個社の品質活動、そしてベンダーまで巻き込んだ PDQ (Product Data Quality:モデルデータ品質) の活動の結果、各 CAD の形状データの品質も良くなっており、多少ヒーリングすれば、普通に変換できるようになっているという事情もあります。

鳥谷:
STEP や JT は、CAD のデータ交換に使われるフォーマットですから、それを標準化することには結構意味があるでしょう。一方、ラティスの XVL は 3D データの活用を目指しており、国際標準フォーマットで固定してしまうよりは、通信や VR 機器などのテクノロジーの進歩に応じてどんどん進化させて、高速でかつ使いやすいものを作っていくというスタンスで、デファクトスタンダードを目指しています。そういう考え方に関してはどう思われますか。

相馬:
3D データや属性、アセンブリ構造を表示するツールを、様々なベンダーが手軽に開発できるということはユーザにとって大きなメリットがあると思います。ビジュアライゼーションのフォーマットが国際標準になるということの業界の受ける恩恵の一つでしょう。

ラティスさんが SDK を公開して、色々なベンダーが開発できるようにしているのも、これを実現するためですね。これは JT でも同じです。フォーマット拡張を自由にするデファクト化を選ぶか、フォーマットを固定する代わりに汎用的に広めるかの戦略の違いだと思います。

3D pdf、QIF の最新動向

鳥谷:
3D pdf、QIF のフォーマットの最新動向についても少しお話伺えればと思っています。3D pdf といえば、やはり、(1) ビジュアライゼーション用ポリゴン部分の U3D と、(2) BREP 部分の PRC、という二つの形式を持っていましたよね。先の図を見ると、BREP 部分の PRC が STEP の BREP に置き換わっていくように見えます。

相馬:
置き換わるというよりも、BREP 部分には PRC の代わりに STEP を使うことも可能になるというイメージですね。PRC は 3D pdf に使う以外にはあまり用途がなく、そのために変換が必要というのはあまり生産的でありません。STEP を入れて、そのまま pdf のドキュメントから STEP を見せた方が良いという趣旨のことが書かれていました。とはいえ、3D pdf は結構使われているものなので、STEP に置き換えてのユーザメリットがないと置き換えは進まないかもしれません。

鳥谷:
QIF も BREP を持っています。計測・検査向けというのはどの辺が一番違うのでしょうか。

相馬:
計測・検査の領域が未だ 2次元図面に占められているのは世界共通です。この領域に、PMI を付けた 3D CAD のメリットを行き渡らせようというのが一番の大きな意図になります。元の CAD データの公差の指示に全て ID を割り振って、様々な工場での検査結果を ID でトレースし、統計的に分析するということをデータで回していこうという設計です。

検査を 3D CAD 前提で行うので、曖昧さを排除し、厳密にやるために幾何公差を非常に重視しているのが特徴です。幾何公差を表現するために、図面の世界でいう形体 (英語では feature) に相当する概念を、しっかりデータモデルにしていることがその他のフォーマットとの大きな違いです。

鳥谷:
なるほど。固有 ID によって検査結果まで追跡可能にするというのが本質ですね。ここでも幾何公差が重要な役割を果たすのですね。ところで、日本では、STEP AP242 や、QIF といったフォーマットはどの程度普及しているのでしょうか。

相馬:
AP242 は、CAD の対応も進み、もうかなり使われ始めていると思います。今後新しく変換の仕組みを作ろうとすると、今なら AP242 を使うでしょう。一方 QIF は、まだまだこれからです。ただアメリカの農機具大手のジョンディア社が、自社の品質・計測データをきちんとエビデンスとして保管していきたいという背景から、CAD ベンダーを巻き込んで国際規格化したという経緯があり、実務で使われているという強みがあります。

QIF に限らず、3D pdf なども含めて一般的にアメリカでは、軍がトップダウンで 3D データを活用して調達するというようなことも進めており、そこに先進的なユーザがついて来ており、製造から調達まで 3D データを中心に進めましょうというユーザが、結構出てきています

鳥谷:
それはまた XVL ビジネスにとっても追い風ですね。

相馬:
そうですね。そういった 3D 活用の動きを推進する会議にも何回か出席したのですが、一番大きな議論は、技術的なものでなく、上司を説得してプロジェクトを進めるための方法なのです。やっぱり仕事のやり方を変えるための仕掛けに一番頭を悩ますというのは万国共通なのだとおもいました。

鳥谷:
ラティスの提唱する DX × 3D もまったく同じです。トップのリーダーシップがあって、IT 部門とユーザ部門にキーマンがいて、ようやく前に進みます。ここが日本の製造業の3D変革の一番の課題だと感じています。

(続く:3D を DX に活かす (2) セマンティック PMI 実現への道しるべ)

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